【写真上は六分儀(Wikipediaより)】
《ロマンを感じさせる「六分儀」による航海術》
私たちヨットでクルージングしている者にとって、「六分儀」って、ヨットで帆走する魅力に次いで、ロマンティックな航海用具の響きがあります。
「六分儀」は2つの視認可能な物体間の角距離を測定するために用いる道具です。
「六分儀」の主な用途は、天測航法のために、天体と地平線との間の角度(高度)を測定することです。
19世紀後半から20世紀にかけて、それを使って天体の高度を測定することで、地球上の自分の位置を知る技術が確立しました。その航海術が天測航法または天文航法と言われています。
現代では地球上の自分の位置を知る手段に飛行機・車・船はもとより登山者やスマホ所持者にもGPSが利用され、私たちのヨットでもクルージングの際はGPSが内蔵されたタブレットで電子海図等を利用しています。
よって、航海での「六分儀」は、今ではGPSが利用できない場合のバックアップとしては考えられますが、実際には使用されなくなりました。ただ、風を利用してヨットを帆走させている私たちにとっては、ロマンを感じさせる代物なのです。
今回は「六分儀」を利用して、地球上の自分の位置を知る方法について考えてみたいと思います。
地球上の自分の位置は緯度と経度で決められます。
海図の左右端には緯度の目盛りが、上下端には経度の目盛りが記されています。
よって、自分の位置の緯度と経度がわかれば海図上でその位置が特定できるわけです。
緯度は図-1(右)のように、地球上のある地点が赤道からどれくらい離れているかを表すもので、その地点と地球の中心とを結ぶ直線が赤道面となす角度のことです。赤道を0°として北は北極点、南は南極点まで、それぞれ90°となります。北側を北緯、南側を南緯と呼びます。
一方、経度は図-1(左)のように、地球上のある地点がグリニッジ子午線(イギリスのグリニッジ天文台を通る子午線)からどれくらい離れているかを表すもので、グリニッジ子午線を0°として東西に180°まであり、東側を東経、西側を西経と呼びます。
なお、子午線上の緯度1´(分)の長さが1海里(マイル)です。緯度1°(度)は60´なので、緯度1°(度)の距離は60海里となります。1海里は1,852mです。
図-2は昼と夜の長さが同じになる春分の日と秋分の日の正午における、北極点と赤道での緯度と太陽の高度との関係を示している。
太陽の水平線からの高度は、赤道で90°(真上)、北極では0°(水平線と重なる)になる。
図-3は同じ春分の日と秋分の日の、北半球の任意の地点における緯度ℓと太陽高度aの関係を示している。
よって、 ℓ(緯度)=90°- a(太陽高度) で表せる。
地球は太陽に対して傾いているため、春分・秋分の日を除けば、太陽は北に動いたり、南に動いたりする。
太陽が赤道からどれ位、南北に動くかを示すのが「赤緯(せきい)」でdで表す。
図-4は太陽が赤道から北に移った(北半球の夏)を示している。
赤緯dを考慮すると、
つまり、ℓ(緯度)=(90°-a(太陽高度))+d(赤緯)
になる。春分や秋分の日の計算に赤緯の分だけ足せばよいわけだ。
なお、赤緯dは天測歴に掲載されている。
図-6は太陽が赤道から北に移った(北半球の夏)を示しているが、北半球にいる観測者が、太陽の赤緯dより南(赤道に近い方)にいる場合である。
観測者は太陽を北側に見て高度を測ることとなる。
この時の赤緯dと緯度ℓの差をzとすると、
① d(赤緯)=ℓ(緯度)+z ② a(太陽高度)+z=90°
① と②から
ℓ(緯度)= d-z= d-(90°-a)= -(90°- a(太陽高度))+ d(赤緯)
以上は、観測者が北半球にいると想定した例を示したが、南半球にいる場合も図が上下逆さになるだけで、全く同じである。
【結論】
六分儀で正午に太陽の高度を測定して緯度を求める。
(90-a)の値にNという符号をつける
② 太陽を北に向かって測定した場合
(90-a)の値にSという符号をつける
③ 天測歴で赤緯dを調べる
〈赤緯には必ず赤道より北か南かを示すNかSの符号がついている〉
【例題】
南に向いて観測した太陽の高度aが65°で、赤緯dがN10°30´の場合
(90-a)もdも符号は同じNになるので
緯度ℓ=N(90-65)°+ N10°30´
=N25+ N10°30´
=N35°30´(北緯N35度30分)
2. 自分の位置の経度の求め方
なぜ太陽が真南にきた時間を知ると自分のいる経度がわかるのか?
経度については、海外旅行をするときの日本と現地時間の差(時差)と考え方は同じで、経度が15°で1時間の差になる。(360°÷24h=15°/h)
経度を知るには、その場所で太陽が真南に来た時の時間を計測し、それが経度0度のグリニッジ標準時(GMT)より何時間何分進んでいるか、または遅れているかを調べ、その時間差を度に換算すれば、今いる場所の経度が算出できる。
時間と度の関係は、地球が24時間で1回転することを前提としている。
つまり、24h=360°
船にはグリニッジ標準時を示す時計(いわゆるクロノメーター)が必須になるが、グリニッジ標準時の正午との時差を求めて、度に換算する。グリニッジ標準時より早ければ東経、遅ければ西経になる。
【例題】
太陽が真南に来た時間(南中時刻)を測定したら、グリニッジ標準時の正午(12時)より10時間18分41秒早かったとする。
18m×15′/m =270´= 4°30´
41s×15″/s =615″=10´15″
経度= E(150+4)°(30+10)´15″
= E154°40´15″(東経154度40分15秒)